交通事故の加害者が任意保険に加入していない場合、治療費や修理費の請求はできるのでしょうか?
2017/12/26

この記事の監修弁護士
四ツ橋総合法律事務所 代表社員 植松 康太
交通事故後の後遺症でお悩みを抱えておられる方、不安を解消するためご遠慮なく当事務所にご相談ください。
交通事故の相手となる加害者が任意保険に加入していない場合、車の修理代や治療費の請求が難しいケースは非常に多く見受けられます。
こうした実態を知らずに「誰もが修理代や慰謝料を支払えるもの」と高を括っていると、想定外とも言える相手方の対応により、スムーズな問題解決が図られなくなるため、注意が必要です。
また任意保険未加入の無保険車に乗るドライバーの中には、悪質ともとれる対応をする方々も大変多い実態がありますので、こういった交通事故の実情について頭に入れておくこともトラブル防止に欠かせないと言えるでしょう。
今回は、相手方が保険に入っていない無保険車だった場合の対処法について、読者の皆さんと一緒に細かく確認していきます。
無保険車とは?
任意保険に加入していない自動車を、無保険車と呼びます。
全車両に加入が義務付けられている自賠責保険については、よほど悪質なドライバーでもない限り、大半の車が入っていると捉えて良いでしょう。
これに対してその名のとおりドライバー自身が自由に入る・入らないを選べる任意保険の場合、意外と加入をしない無保険車が多く走行している実態があるのです。
《車両の3割が無保険車という実態》
ちなみに日本損害保険協会の調査結果によると、全国における任意保険の平均加入率は73.8%となっているようです。
こうした結果から考えると、任意保険に入っていない無保険車は全体の3割近くあると言えるでしょう。
無保険車との交通事故被害に遭った時に生じやすい問題
任意保険に入っていない無保険車を相手とする交通事故を起こすと、下記のようにさまざまな問題が被害者側に生じやすくなります。
《相手方の保険会社から支払いが受けられない》
例えば、車両が壊れるほどの大事故を起こした場合、車の修理費だけでなく治療費、入院費、病院までの交通費、修理が終わるまでの代車費用などもかかってきます。
加害者が任意保険に入っていなければ当然、相手方保険会社からの上記の支払いが受けられなくなりますので、注意が必要です。
また交通事故によるケガが酷ければ、休業損害なども発生しますので、こうした形で膨らんだ損害賠償額を当事者同士で示談交渉しなければならない状況は、被害者側に更なる精神的苦痛を与えると言えそうです。
《自賠責保険からも保険金は支払われるのでは?》
すべての車両に加入が義務付けられている自賠責保険には、補償範囲の狭さと金額の低さという難点があります。
例えば、治療費・看護料・休業損害・入通院費・慰謝料といった傷害による損害について自賠責保険で支払えるのは、120万円が上限となっています。
被害者の治療や入院期間が長引き、なかなか会社に復帰できない状況が続けば、あっという間に120万円を超えてしまうこともあるのです。
しかし自賠責保険では120万円までしか支払えない仕組みとなっていますので、その上限を超えた部分については、やはり加害者個人に請求せざるを得なくなると捉えた方が良いでしょう。
《後遺障害や死亡慰謝料も少ない》
交通事故被害者の精神的損害に対して支払われる慰謝料についても、自賠責保険はやはり少ない実態があります。
例えば、後遺障害の中で最も低い第14級で比較してみると、弁護士基準の慰謝料が110万円であるのに対して、自賠責基準では32万円という実態があるのです。
また死亡慰謝料については、本人に対する慰謝料(350万円)+遺族に対する慰謝料という考え方で自賠責保険の計算は行われますので、交通事故でドライバー本人を失った家族にとっても悪質なドライバーとのトラブルはなるべく避けたい存在になりそうです。
交通事故の相手が無保険車の場合の対処方法1 相手への直接請求
交通事故の相手方が任意保険加入していない場合、保険会社同士の示談交渉ができない形となります。
こうした状況が生じた時には、加害者となる相手方に対して被害者側からマイカーの修理費や治療費、慰謝料などの請求をしなければならない実態があるのです。
賠償金の支払いを直接行う際の方法としては、相手方と連絡をとって対話によって示談交渉を進めていく形が基本となっています。
交通事故被害者の受けたケガや車のダメージが軽度であり、加害者の自賠責保険と預貯金の範囲内で十分に支払い可能な場合は、当事者同士の対話で問題解決に至ることもできるようです。
《内容証明郵便の活用》
これに対して交通事故の加害者にメールや電話をしても全く応じる姿勢がなかったり、被害者の請求金額を払う意思が見られない場合は、内容証明郵便を使って手紙を出すことが次のステップとなります。
「誰が、いつ、誰宛に、どんな中身の手紙を出したのか?」を郵便局側で公的証明してくれる内容証明郵便は、損害賠償請求などのトラブル時に多く選択される方法です。
内容証明郵便を使って手紙を出せば、交通事故の相手は「そんな手紙はもらっていない!」といったい逃れができなくなるのです。
《示談書の作成》
この方法を使って相手が示談交渉に応じた場合は、当事者間で決めた内容を示談書に残すようにしてください。
また自動車修理費や慰謝料、治療費などの支払いは、証拠をきちんと残すために銀行振込するのがおすすめとなります。
交通事故の賠償金を手渡しにすると、後々「全額渡した・もらっていない」などのトラブルが起きやすくなるため、注意をしてください。
《示談書を公正証書にするメリット》
給料日やボーナス支給日といった将来的な支払日や、分割払いの際に相手方が逃げてしまうトラブルを防ぐためには、示談書を公証人役場で公正証書にする方法がおすすめです。
当事者同士が作成した普通の示談書には、基本的に法的効力はありません。
これに対して示談書を公正証書にすると、万が一相手が支払いから逃げた場合に、裁判所で給与や預貯金の差し押さえを行うこともできるようになるのです。
公正証書の作成には早くても1週間~2週間ほどの期間がかかりますが、後々生じるトラブルを防ぐためには、多少手間がかかっても公証人のお世話になっておくのが理想となるでしょう。
交通事故の相手が無保険車の場合の対処方法2 裁判
示談書を作成しているのに、相手方が支払いに応じない。それ以前に、示談交渉の合意や話し合いすらできていない・・・。
こんな状況に陥ってしまった場合は、裁判で損害賠償請求をするしかなくなります。
裁判をする際には、交通事故の具体的な内容と損害の詳細、評価額について適切に主張と立証を行う必要が出てきます。
この部分が曖昧な状態で裁判を起こした場合、損害が認められないという理由で被害者側が負ける可能性も出てくるため、注意をしてください。
被害者自ら起こす裁判でスムーズかつ納得の結果を出すためには、ただ訴えるだけでなく、事実関係をわかるようにするさまざまな準備が必要になると言えそうです。
《示談書がある場合は問題解決しやすい》
被害者・加害者が一緒に作成した示談書がある場合、その内容に基づく形での請求訴訟となります。
示談書があるということは、相手方も交通事故の存在や内容を認めていると判断されますので、主張と立証はより簡単になると言えるでしょう。
無保険車の相手方が判決に従わない場合は?
裁判で被害者が勝訴をしても、相手方が断固として支払いをしないケースも存在します。
普通の常識で考えれば、示談書に強制執行認諾条項が付けられていれば、相手はそれを守って支払いを続けると感じられるかもしれません。
しかし実際は、自分の財産が差し押さえ対象になると知りながら、損害賠償請求の支払いに応じない悪質な加害者も少なくない実態があるのです。
《強制執行ができないケースとは?》
示談書や公正証書による強制執行ができないのは、加害者側に資力がない場合です。
例えば、事故を起こした加害者が月給などをもらえる仕事をせず、また預金口座もゼロの状態であれば当然、差し押さえるだけの資力がないという状況となってしまいます。
この場合は申立人である被害者側が見つける必要がありますので、注意をしてください。
《自分の保険から補償を受ける》
どんな方法を使っても相手方が賠償請求に応じない場合、被害者自身が入っている任意保険からマイカーの修理代や治療費といった補償を受けられる可能性もあります。
例えば、車両保険に加入している人が事故を起こした場合、自動車の修理代を自分の保険から払える可能性は非常に高いと言えるのです。
しかし車両保険を一度使うと、月々の保険料が上がってしまう難点があります。
また何度か車両保険を使っているうちに、下限や上限が設定されてしまう保険も多くありますので、注意をしてください。
《政府保障事業》
ひき逃げで加害者が特定できなかったり、相手方が自賠責保険にすら加入していない場合は、日本政府が実施する交通事故被害者における最低限の補償制度・政府補償事業の利用が可能になることもあります。
この制度にもとづく補償金額は、自賠責保険と同じ基準となります。
最低限度の補償となる政府保障事業では、被害者に生じたすべての被害回復は難しい実態もあるようですが、相手方が任意保険に入っていない場合の最後の砦として頭に入れておいても良いでしょう。
無保険車との交通事故トラブルは弁護士への相談がおすすめ
任意保険に加入していない無保険車との交通事故被害に遭った時には、さまざまな対応を弁護士にお願いするという方法もおすすめです。
示談交渉を弁護士に依頼すると、自賠責基準や任意保険基準よりも高い弁護士基準で慰謝料請求ができる形となります。
また示談交渉に応じない相手との連絡や交渉には、被害者自身が精神的に疲弊するというデメリットもありますので、1日も早く普段の生活に心身を戻すといった意味でも弁護士のお世話になった方が良いと言えそうです。
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