【職業別】休業損害証明書の計算方法と正しい書き方
2018/01/19
この記事の監修弁護士
四ツ橋総合法律事務所 代表社員 植松 康太
交通事故後の後遺症でお悩みを抱えておられる方、不安を解消するためご遠慮なく当事務所にご相談ください。
交通事故の加害者からきちんと損害賠償額を支払ってもらうためには、被害者側で作成した休業損害証明書を相手方の保険会社に出す必要があります。
この書類を提出すれば「何日休んで、どれだけの休業損害があったのか?」といったことを正しく相手方に伝えられます。
しかし実際に休業損害証明書のサンプルを見てみると、かなり難しい記載内容であることに気付かされる人が多い傾向があるようです。
今回は、手元に届いた休業損害証明書の扱いに悩む皆さんと一緒に、この書類の正しい書き方と職業別に休業損害額の計算方法を詳しく確認していきます。
休業損害証明書とは?
交通事故によるケガなどで仕事を休んだことを証明する書類を、休業損害証明書と呼びます。
その名のとおり休業損害に対する請求時に使うこの書類は、事故によって仕事を休んだ時のみ使うものとなります。
これに対して交通事故で大怪我をしても、全く会社を休まず仕事をし続けている場合は当然、休業損害証明書を保険会社に提出する必要もないと言えるでしょう。
《休業損害証明書は自分で用意するもの?》
休業損害証明書は、基本的に相手方の保険会社から送られてくる書類です。
ネットが普及する今の時代は、GoogleやYahoo!を使って休業損害証明書の雛形のダウンロードも可能です。
しかし基本的な運用としては加害者側の保険会社から届いたものに記入をして返送するという流れとなりますので、わざわざ自分でプリンターを使って印刷などをする必要はないと言えるでしょう。
《休業損害証明書を作成するのは誰?》
休業損害を支払う上での証拠となるこの書類は、基本的に勤務先の総務や人事担当者に記入をしてもらうべきものです。
休業損害証明書の下方には代表者印を押すところもありますので、基本的に交通事故被害者自身が書く書類ではないと捉えてください。
それなりに従業員の多い大企業の人事総務部であれば、過去に何人かの休業損害証明書を作った実績があると考えられますので、基本的には担当者にこの用紙を渡すだけで良いと言えるでしょう。
しかし過去に交通事故による休業をした従業員がでたことのない中小企業の場合は、人事担当者も初めて休業損害証明書を作る可能性もありますので、その詳細などについて逆に質問された時には下記のポイントを伝えてあげるようにしてください。
休業損害証明書を書く時の注意点
ここからは、休業損害証明書の記入時に質問や問い合わせの多い下記4ポイントについて、少し詳しく解説していきます。
《源泉徴収票の添付》
正しい休業損害額の計算をするために、この書類には前年度の源泉徴収票を貼り付ける場所が設けられています。
人事総務部にもデータ保管されている源泉徴収票は、会社側で用意してくれる書類となります。
その会社に就職して間もないなどの理由で前年度の源泉徴収票がない時には、過去3ヶ月分の賃金台帳の写しを添付する形です。
《休んだ日の記載に使う記号とは?》
実際に休んだ日については、表に記載された数字の上に、下記の記号を記入していく形となります。
・入通院などで会社を休んだ日 → ◯
・会社の休日(土日祝日や創立記念日など) → ×
・病院などで遅刻をした日 → △と時間の組み合わせで記入
・病院などで早退をした日 → ▽と時間の組み合わせで記入
この部分については自分が会社側に提出した有給届や欠勤届によっても内容が変わってきますので、交通事故の現場検証や病院などで複雑な出退勤となった場合は、きちんと休業損害証明書の記載をするために手帳などに早退時間などのメモをしておいた方が良さそうです。
《休んだ期間の給与について》
この証明書の中では、休んだ期間の給与支払いについても正しく記入します。
例えば、休んだ期間全てについて年次有給休暇を使った場合は、「全額支給した」に◯を付ける形です。
これに対して有給休暇を1日も減らしたくないという理由で全ての休みを欠勤扱いにした時には、「全額支給しなかった」に◯を付けてください。
《社会保険の名称と連絡先》
例えば、通勤中や勤務時間中に遭った交通事故の場合は、加害者からの損害賠償だけでなく労災保険などの方法を使って給付を受けることも可能となります。
しかし休業損害というのは交通事故の被害によって減少した収入を補填するためにあるシステムとなりますので、健康保険や労災保険から既に給付を受け取っている場合は、二重取りを防ぐために休業損害証明書の中できちんと申告する必要があるのです。
休業損害における3つの基準とは?
実際に請求できる休業損害については、計算時に使う下記の3基準によって変わってくる実態があるため、注意が必要です。
《自賠責保険基準》
全ての車が加入するのが原則となる自賠責保険の基準には、慰謝料額などが最も安い難点があります。
下記の式を使って算定する休業損害については、1日の基礎収入額が5,700円を超過した場合に、その金額を1日あたりの基準額にするという考え方になります。
・自賠責保険の休業損害 = 5,700円 × 休業日数
《任意保険基準》
加害者が任意保険に加入している場合、この方法を使って休業損害や慰謝料額の計算が行われることが多いです。
しかし人によって加入保険の異なるこの基準には、自賠責保険基準や裁判所基準のように計算式が公開されていない難点があります。
こうしたシステムで計算される任意保険からの休業損害額に不満や違和感を覚えた時には、すぐにサインをせずに弁護士などの交通事故トラブルの専門家に相談をした方が良いと言えそうです。
《裁判所基準》
任意保険の金額に納得できず訴訟を起こした場合は、下記の計算式で求められる裁判所基準で休業損害などが算定される形となります。
・裁判所基準による休業損害 = 1日あたりの基礎収入 × 休業日数
《1日あたりの基礎収入とは何ですか?》
休業損害を求める上で欠かせない存在とも言える基礎収入には、現実に収入がある人とない人では大きく考え方が変わってくる実態があります。
給与所得者における1日あたりの基礎収入は、事故に遭う前3ヶ月分の給料合計額を下記の式にあてはめて、計算を行っていく形です。
・1日当たりの基礎収入 = 事故前3ヶ月分の現実収入 ÷ 90
職業別・休業損害額の計算方法
休業損害は、給与収入のあるサラリーマンや正社員以外でも請求できる存在です。
現実収入がない人とある人では、計算の考え方が全く異なる形となりますので、保険会社などで手続きをする際には注意をしてください。
《給与所得者(サラリーマン)の休業損害額計算》
前述のとおりシンプルな計算式で休業損害が求められるサラリーマンの場合、基本給だけでなくボーナス(賞与)や通勤などの手当も対象となることが大きな注意点です。
また休業期間中に減給もしくは昇給があった場合も、その金額を休業損害証明書の中に持ち込める形となります。
この他に有給休暇を使った場合も休業損害に含まれる形となりますので、欠勤を選択しないことにより給与が減らなかったケースに該当した時もこの書類への記入を行うようにしてください。
《事業所得者(フリーランス・自営業者)の休業損害額計算》
源泉徴収票のない自営業者の場合は、自分で税務署に提出した確定申告書を使って前年度の収入を調べる形となります。
基礎収入額については、前年度の収入を365日で割って求める仕組みです。
こうした流れで求めた数値を使って算定する自営業者の休業損害額は、下記の計算式で表せるシステムとなっています。
・自営業者やフリーランスの休業損害額 = 交通事故前年の申告所得(収入-必要経費)÷365(日)× 入通院などで休業した日数
《家事従事者(専業主婦)の休業損害額計算》
事業主などから賃金をもらうことなく、炊事や洗濯、育児といった家事労働を行なっている専業主婦でも、交通事故による休業損害の請求は可能です。
こうした家事従事者の休業損害計算は、賃金構造基本統計調査から発行されている賃金センサスという資料を使って、女性全年齢の平均賃金を調査することから始まります。
自分の性別の平均賃金の年収がわかったら、その数字を365日で割り、1日あたりの基礎収入額を求める形です。
《会社役員の休業損害額計算》
会社役員の休業損害を算定する場合は、この役職の人達の収入が「労務提供の対価部分」と「利益配当的部分」の2つに分かれる実態を知っておかなければなりません。
この中で休業損害として認められるのは、実際の労働に対して受け取る報酬となる前者のみとなります。
後者については、労働をしなくても受け取れる報酬といった考えた方により、休業損害の対象から外れる形となりますので、注意をしてください。
《不就労者や失業者の休業損害額計算》
会社での仕事も家事労働も行わない失業者の場合、収入がないという理由で休業損害はありません。
しかし交通事故の被害に遭った段階で就職先や転職先が決まっていて、事故に巻き込まれなければ当然、就労によって収入を得ていたと考えられる場合は、現実的に働いていなくても休業損害が認められるケースもあるようです。
《学生アルバイト(幼児を含む)の休業損害額計算》
アルバイトやパートタイマーで収入を得ている人達も当然、休業損害が認められます。
また大学や専門学校に通っている学生が交通事故によるケガの治療が長引き、卒業が難しくなった場合は、何のトラブルもなく卒業や就職していれば得られたであろう給与額が休業損害として認められるケースもあるようです。
まとめ
算定に使用する基準が3つも存在する休業損害は、保険会社から提示される金額の部分で、被害者が納得できない問題が生じることもあると言われています。
また加害者が自賠責保険にしか加入していない場合も当然、休業損害額が低くなってしまう実態がありますので、任意保険未加入の相手との事故で問題が大きくなった時にはなるべく早めに交通事故トラブルに強い弁護士に相談をするのが理想と言えそうです。
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